各助成金をコース別に詳しくみていく徹底解説シリーズ。第一弾は、助成金で最もメジャーな『キャリアアップ助成金 正社員化コース』をお届けします。
全体像から各要件に落とし込み、わかりやすく解説します!
『申請の注意点』や『よくある失敗とその対策』もありますので、ぜひ最後までご覧ください。
- 正社員化コースの全体像がわかる
- 自社に合った助成金を確認できる
- よくある失敗と対策からリスク回避する
キャリアアップ助成金正社員化コースとは
キャリアアップ助成金正社員化コースは、契約社員・パートタイマ―・アルバイト・派遣社員等の非正規雇用者を正社員に転換することで受給できる助成金です。
人材を確保できてさらに助成金も受給できたら助かる!
詳しくは後述しますが、支給額(原則)は中小企業の場合、無期雇用からの正社員転換で28万5千円、有期雇用からの正社員転換で57万円になります。
制度のあり方と活用するメリット
総務省の調査をもとにした資料「非正規雇用の現状と課題」によると、正社員として働く機会がなく、非正規雇用で働いている者(不本意非正規雇用)の割合は、非正規雇用労働者全体の10.3%、210万人(2022年平均)となっています。
また、厚生労働省の実態調査によると、有期雇用フルタイムで働く25歳~34歳の男性は7割以上、同年齢階級の女性も4割以上が今後の働き方で「正社員になりたい」と回答しています。
キャリアアップ助成金の”正社員化コース”は、こうした非正規雇用で働く方の正社員化の機会を増やすことに直接アプローチしています。助成金を通して多くの企業で正社員転換制度の導入が進めば、”正社員になりたいけどなれない”方への救済に繋がりますね。
会社にも労働者側にもメリットがありますよ。
会社側のメリット | 労働者側のメリット |
---|---|
優秀な人材の確保 労働意欲の向上 労働力が安定し業績の安定に繋がる | 雇用の安定 待遇の向上 長期的なキャリア形成ができる |
自社に合っている?正社員化『適性チェックリスト』
キャリアアップ助成金の正社員化コースはこんな方におすすめです。
□ 契約社員やアルバイト等を雇用しているもしくは雇用しようとしている
□ 正社員化後は賃金UPや賞与を支給できる
□ 優秀な人材に長く働いてもらいたいと思っている
□ 1年以内に退職する人は少ない
制度のあり方や適性について確認できたところで、早速、次章から制度の要件をみていきましょう。
図解でわかる正社員化コースの全体像
こちらが全体像になります。申請の流れや対応すべきこと、主な要件についてまとめています。
申請の流れ※申請期限に要注意
助成金には申請の流れがあります。いつまでに何をするか、ざっくりと確認していきましょう。
転換前までに
・キャリアアップ管理者の選任
・対象者の確認
・申請スケジュールの組み立て
などを行い、キャリアアップ計画書を作成します。
申請後、約1ヶ月程で会社に確認印が押印された計画書の写しが届きます。
社労士事務所へ代行を依頼している場合はPDFにて共有してください。
転換前までに行います。
面接試験などの正社員転換の手続を経て、
就業規則の適用後6カ月以上経過した対象者を正社員転換します。
正社員転換の主な要件
・給与(基本給推薦)3%以上UP
・昇給あり
・賞与または退職金制度の適用あり
正社員化後の賃金を6か月分支給した日の翌日から2か月以内に支給申請を行います。
支給申請後2ヶ月~6ヶ月をかけて申請要件に合致しているか、労働局にて厳格な審査が行われます。
審査で問題がなければ、会社に支給決定通知書が届きます。
社労士事務所へ代行を依頼している場合はPDFにて共有してください。
申請した口座への振り込みを確認して受給完了!
何となく、流れがつかめればOKです!
ただ、支給申請の期限は厳守する必要があります。ほぼ例外なく1日でも過ぎると受給できません。
ウッカリ忘れてた!ということがないよう「今後の予定は何だっけ??」とわからなくなったら、本記事に戻って確認してみてくださいね。
正社員化コースの対象者
正社員化コースの対象が非正規雇用といっても、すべての方が対象となるわけではありません。
次のいずれにも該当していることが必要です。
□ | 有期雇用または無期雇用労働者 |
□ | 正社員化時点で賃金の額または計算方法が正社員と異なる就業規則を6ヶ月以上適用している |
□ | 正社員化時点で6カ月以上雇用されている(11日未満の月は除く) |
□ | 正社員になる旨約して雇い入れられていない |
□ | 正社員化の前3年以内において、密接な関係の事業主※に ①正社員として雇い入れられていない ②請負、委任関係にない③役員等でない |
□ | 3親等内の親族以外である |
□ | 支給申請日に離職していない |
□ | 正社員化から定年まで1年以上ある |
□ | 定年を迎えていない(密接な事業主※との関係も含む) |
□ | 就労継続支援A型の事業所における利用者でない |
※派遣社員または有期実習型訓練の受講者を対象とする場合は、追加で確認事項があります。
※密接な関係の事業主とは、財務諸表等の用語、様式および作成方法に関する規則に規定する親会社、子会社、関連会社および関係会社等をいいます。
例えば、関係会社の業務委託事業者等を自社で契約社員として雇用し、正社員化しても無効になってしまうのです。
賃金の額または計算方法が正社員と異なる就業規則とは?
令和5年度から、賃金の額または計算方法が正社員と異なる就業規則を6ヶ月以上適用していることが要件のひとつになっています。
契約社員等の就業規則において、正社員と異なる制度を明示的に定めていれば支給対象となり得ます。
次の例を参考にしてください。
(例) | 正社員 | 契約社員等 |
---|---|---|
基本給 | 月額25万円~ | 月額20万円~ |
昇給 | あり | なし |
賞与 | 支給あり | 支給なし |
退職金 | 支給あり | 支給なし |
資格手当 | 3000円 | 1000円 |
申請の前提になる部分。じっくり確認して申請スケジュールを立てるのがおすすめです!
賃金の額または計算方法に違いが必要だからといって、助成金を受給するために契約社員等の労働条件を不当に下げるのはNG。制度趣旨に反してしまうのでやめましょう。
正社員化の主な要件
正社員転換には大きく2つの要件があります。
転換手続きに関するものと、転換後の給与と待遇に関するものです。
1.転換手続き(面接等)を実施する
就業規則に定めた正社員転換規定に沿って転換を行います。
転換手続きとして『面接試験』と定めた場合、対象者に対し記録に残る方法で面接試験を実施しましょう。
2.給与3%UPを実施する
正社員転換後の要件として
- 給与が3%以上UPしていること
- 就業規則で正社員に昇給制度があること
- 就業規則で正社員に賞与または退職金制度があること
の要件があります。ここでは3%UP要件について深堀りしていきます。
転換前6カ月の賃金総額に対する昇給
基本的には、転換前6ヶ月の賃金総額に対し、転換後6ヶ月の賃金が3%以上UPしていることが必要です。
賃金総額に含まれない手当と期間
例えば次の手当と期間は、賃金総額に含まれません。
含まれない手当例 | 含まれない期間例 |
---|---|
通勤手当 住宅手当 休日手当 精皆勤手当 など | 正社員化後の試用期間(正社員化前の期間に含める) 勤務日数11日未満の月 |
正社員化後に試用期間がある場合、その試用期間後に正社員転換したとみなされます。
つまり、賃金総額を算定するうえでは転換前の期間に含まれます。
試用期間に昇給していた場合、賃金3%UPを達成しない可能性もあるため注意してください。
基本給での賃金UPがおすすめ
賃金総額は諸手当も含めて判断しますが、手当で昇給させる場合審査が厳しい傾向にあります。
就業規則への規定内容や手当の趣旨等に応じて、算定から除かれる場合もあります。
結果的に賃金3%以上UPの要件が達成できない可能性があるため、特にこだわりがなければ基本給で上げることをおすすめします。
賃金を3%UPしなければならないからといって、事前に契約社員の給与を正社員より3%減らす等はNGです。制度趣旨に反してしまうのでやめましょう。
賃金要件確認ツールを活用しよう
要件に合った昇給ができているか不安…
そんな方のために、厚生労働省から賃金要件確認のためのお助けツールが用意されています。まずはこちらを活用して、確認してみるのもアリだと思います。
賃金総額に含めない手当や期間があるため、賃金要件確認ツールでクリアしたから100%大丈夫と言い切れるものではない点にご留意ください。
正社員化コースの支給額
会社規模別に、雇用形態が『有期雇用』か『無期雇用』のどちらに該当するかで支給額が異なります。
有期雇用は期間満了による契約打ち切りの可能性がありますよね。雇用が不安定になりやすい分、無期雇用からの正社員転換よりも手厚い支給額になっています。
有期なのに無期扱い?申請区分の注意点
正社員化コースでは
- 雇用期間が通算3年を超えている
- 事業所で6ヶ月以上、無期雇用契約だった期間がある
- 就業規則の雇用区分に、契約期間の明記がない
に該当する場合、実際は有期雇用契約であったとしても助成金上は『無期雇用』からの正社員転換扱いになってしまうので注意してください。
入社年月日と転換予定日は要チェックです!
≪参考≫有期契約の雇用期間が3年以内であればよいので、以下のケースは問題ありません。
- 通算3年の契約期間満了日の翌日に正社員転換する場合
【例】契約期間:令和2年6月1日~令和5年5月31日(3年)
転換日:令和5年6月1日
加算対象者と加算額
正社員化コースでは、以下の者を正社員転換した場合通常の助成額に加算がつきます。
- 派遣労働者を派遣先で正社員化
- 母子家庭の母または父子家庭の父
- 人材開発支援助成金の訓練終了後
- ↑のうち自発的職業能力開発訓練または定額制の訓練終業後
- 勤務地限定、職務限定、短時間正社員制度を新たに規定し、その区分で正社員化(1事業所あたり1回のみ)
対象者へ積極的に正社員化を提案してみたり、訓練受講を考えてみたり。加算も視野に検討してみてはいかがでしょうか。
人材開発支援助成金とキャリアアップ助成金のダブル受給も可能
人材開発支援助成金とは、労働者に対し要件を満たして職業訓練等を実施した場合に、その訓練経費や訓練期間中の賃金の一部等を助成する制度のこと。
つまり、訓練経費等の助成に加えて正社員化の助成を受けられ、さらに加算もあるという特別仕様になっています。
人材開発支援助成金のなかには7つのコースが用意されていますが、加算対象となるコースは次の3つです。
- 人材育成支援コース
- 事業展開等リスキリング支援コース
- 人への投資促進コース
簡単に申請できますか?
実は要件も多く複雑で、計画的な実施が必要です。自社で申請するのは少し難しいかも…。
決して気軽に申請できるものではないのですが、人材活用の面でも有用な制度なので、気になる方はお近くの社労士に聞いてみてください。
当サイトでも今後、徹底解説シリーズで取り上げる予定です!
事前に用意しておくべき書類
次の書類を用意しておくとスムーズに支給申請できますよ。〇がついているものは支給申請の添付書類なのでしっかり準備しておきましょう。
□ | 雇用保険適用事業所設置届 | |
□ | 対象者の雇用保険被保険者資格取得確認通知書 (転換前に被保険者でない場合は転換後のもの) | |
□ | 振込先口座がわかる書類 (通帳、キャッシュカードの写し) | |
□ | 認定されたキャリアアップ計画書 | 〇 |
□ | 転換前後の就業規則(本則、賃金規程等) | 〇 |
□ | 転換前後の雇用契約書等 | 〇 |
□ | 転換前後6ヶ月の出勤簿またはタイムカード | 〇 |
□ | 転換前後6ヶ月の賃金台帳または給与明細 | 〇 |
よくある失敗例とその対策
助成金は基本的に毎年要件が変わります。注意しないと見落としがちなポイントや、見聞きした失敗談をその対策とあわせてお伝えしていきます!
失敗例1:雇用契約書と就業規則の内容の不一致
例えば、雇用契約書には『昇給なし』とし就業規則は『昇給あり』となっていた場合。
労働契約と就業規則は、いいとこどりの関係になっています。つまり好待遇なほうの規定に一方が上書きされるイメージです。
上記の例でいうと自動的に雇用契約書が『昇給あり』になります。
正社員化の対象者でも紹介したように、『賃金の額または計算方法が正社員と異なること』が要件のひとつでしたね。
一番問題なのは、『昇給の有無』を正社員と非正規社員の待遇の違いとしていた場合、この要件に該当しなくなることです。
結果的に他の要件を満たしていたとしても不支給になってしまうことがあり得ます。
雇用契約書と就業規則に矛盾がないか、照らし合わせてしっかり確認する。
失敗例2:賃金3%UPの計算誤り
一番多い、ありがちなミスがもしれません。
・転換前の勤務日数11日未満の月を含めて計算してしまった
・含めて計算しなければならない手当を含めずに計算してしまった
・正社員化後に試用期間があるにもかかわらず、正社員化後の期間に含めて計算してしまった
ということが挙げられます。
管轄ハローワークや社労士に確認する。
正社員転換をする際は、試用期間を適用しない。